リハビリの世界の話を患者さんやそのご家族、またこれからリハビリに興味を持ちたいかたなど、リハビリの専門家ではないかたにも読んでいただけるようわかりやすいことばでブログにしてみました。趣味の話も少々。                    (旧タイトル・理学療法士板東蓮三郎の視点論点)

鍼治療②

 私の祖父は「鍼灸師」でした。
 戦前は中国東北部(旧満州)の日本人社会にうまくもぐりこみ、鍼灸で生計を立てていたようですが、引き揚げてきた日本で戦後は鍼灸の看板は出さずに別の商売をし、私が祖父と一緒に暮らしていた昭和40年代には母の友人知人に頼まれたときだけ鍼を打ってあげていましたが、祖父がおこなう鍼治療を近くで見ていて、その有効性を認識することはありませんでした。

 私が、「はり」ってすごいな、と感じたのは、昭和47年に田中角栄首相が中国を訪問して日中国交回復が実現し、中国の様子を伝える映像をテレビで見たときのことです。
 若い中国人女性が足に鍼を打たれ鍼麻酔をかけられた状態で外科の回復手術を受けています。腹部は切り開かれて臓器が見えているのに彼女の意識は清明で、腹部が見えないようについたてで仕切られた彼女の顔は笑顔で、テレビのインタビュアーの質問に応えています。
 当時全寮制の中学校の学生だった私は、昼休みの食事の時間に寮の食堂のテレビでこれを見ていました。
 たいへん興味をそそられたのですが、上級生の「気持ち悪い、チャンネル変えろ。」の一声で変えられてしまい、それ以上見ることができず残念でした。
 中国では鍼がこんなふうに使われているのか、と驚異を感じました。
(日本でも、体質的に薬による麻酔が体質的に効かない人に対して鍼による麻酔をおこなうことがあると、後に知りました。)
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鍼(はり)治療①

 今年のプロ野球のペナントレースは広島とソフトバンクの優勝で終わり、クライマックスシリーズ直前となりました。
 優勝を逃し、さらにクライマックスシリーズにも出場できなかったチームの中では、その原因(責任?)の究明と来年に向けての戦力の整備が始まっています。

 今年の春、巨人の澤村投手が不調だったのが、キャンプ中にチームのトレーナーによっておこなわれた鍼(はり)治療によっておこった長胸(ちょうきょう)神経の麻痺によるものであるとして、球団が澤村投手に謝罪をしたという報道がありました。
 この件に関して鍼灸の治療団体から、「鍼治療では長胸神経麻痺は起こらないのではないか、鍼治療を誤解される恐れがある」として抗議がありました。

 この騒動を聞いて、すでに古い世代に属する私は、江川投手の引退のときの騒動を思い出しました。
 どうしても巨人に入りたい江川投手は「チーム間の戦力の均衡を図る」というドラフト制度の趣旨をないがしろにした「空白の1日」を使って巨人と契約し、1年目の選手はトレードできないという球界のルールがあるにも関わらず、ドラフトで正規に江川投手を指名した阪神との間でコミッショナーによる「強い要望」という不思議な裁定があり、小林投手と交換トレードするという犠牲者まで出して巨人に「ごりおし入団」したためにすっかりダーティーの印象が付いてしまいました。
 それほど大騒ぎして巨人に入団したのに、自分の速球が通用しなくなってきたらしいと感じた江川投手は、軟投派の投手に変わっていこうという選択肢はまったく考慮せず、今度は何が何でも引退したくなってしまったようです。
 日本シリーズの前に即効性はあるが選手生命を縮めるという「禁断のツボ」に鍼を打つという選択を自らの判断でおこなった(だからもう選手活動は続けられない)と江川選手が発表したことで、鍼治療に注目が集まりました。
 この時も鍼灸の団体から、「そんなツボはない」と抗議がありました。。
 結局これは江川投手の作り話だったのですが、このようなことがあるたびに鍼灸などの治療が疑惑の目を向けられ信頼性を損なわれかねない生け贄にさせられています

 この江川投手の引退騒動は私が理学療法士の養成校に入学するよりも前の出来事で、リハビリの専門家もまだそれほど多くはなく、プロ野球チームのトレーナーに理学療法士が入っているところもほとんどない時代でした。
 理学療法士がいても澤村投手のような事例が起こりましたが、江川投手の時代に現在のようにリハビリのシステムがもっと機能していれば、どのように変わっていたのかなあと思います。

山田太一さん

 少し前、テレビドラマなどの脚本を多く書かれている作家の山田太一さんが今年のはじめに脳出血になられ現在リハビリ中で、ことばが思うように頭に浮かばなくなったため作家活動を続けることが難しくなり事実上の断筆宣言をされた、という報道を目にしました。
(その後「断筆宣言」はしていない、という報道がありましたが。)

 山田さんの作品で私がもっとも印象に残っているものは「岸辺のアルバム」です。高校生のころ、八千草薫さんの主演でテレビで放送されたのを見て原作が読んでみたくなり、もともと新聞小説だった原作を読みました。
 私のよく知っている渋谷の街の様子が目に浮かぶように描かれているのに感激して好きな作家になり、その後も「沿線地図」などの身近な生活場面を取り上げている山田作品を意識して読んだりテレビで見たりしました。

 山田さんは「病気になるのは病気になりたい奴だ」と豪語していたほど若い頃はご自分の健康に自信があったそうです。
 そんな山田さんがかつて老人を扱った作品を書いたときには、老人の気持ちは推測で書くしかなかったそうですが、病気や老いを経験されたいま、山田さんしか書けない親しみを持てる身近なテーマを題材にした作品を生み出してほしいものです。
 リハビリが進んで、またペンを取ってくれることを期待したいです。

実習生の生活

 東京の一流広告代理店の新入社員の女性が過重な残業に耐えかねて自殺したり、東京オリンピックのために急ピッチで建設中の新しい国立競技場の建設現場で月に200時間残業をさせられていた若い作業員が自殺して社会問題になりました。
 医療の世界でも最近研修医があまりの長時間労働に過労死したり自殺したりする例が続きました。
 日本の社会では勤務先のために「わたくし」を殺して長時間労働を提供する事を美徳とする風潮があります。それに苦しんでいる一個人がその不条理を訴えても上司からは「仕事に不熱心で不忠実な怠け者」と見なされるばかりで、誰かが死ななければ誰も問題に振り向きません。

 私が理学療法士のインターン実習生だった頃も、帰宅後レポートを作成するのに睡眠時間を大きく削らなければならず、身体的にはいっぱいいっぱいでしたが、そんなとき学校の教官からは「寝なくても死なない。」などと平気で言われました。
 医療の世界では(医療に限らずどの世界でも)先輩たちの間に「自分たちもそういう時代を経験してきている。修行中は睡眠時間を削って多くのことを経験し身につけるのが当たり前。」という意識があります。
 また病院は研修医の長い労働時間を必要な労働力としている面もあるそうです。

 最近NHKの特集番組で「睡眠負債」という考え方かたが紹介されました。
 時計や光など時間がわかる一切の刺激を排除して自然に目が覚めた時刻といつも起床する時刻を比べた「差」の蓄積を「睡眠負債」とし、若いときから負債が多い人は、将来脳梗塞や心筋梗塞、認知症などを発症するリスクが大幅に高くなる、ということです。

 新人の健康面も考慮した教育システムや、多くの従事者により労働力を分け合うワークシェアリングのシステムをもっと社会全体で考えるべき時期に来ているのだと思います。

障害認定

 あるご婦人(P夫人)の脳卒中のリハビリをやっていたところ、そのかたのご主人(P氏)から、「家内の状態で身体障害者の認定何級とれますか?いくらもらえますか?」と聞いてきました。
 P氏はその以前にもご自身の手の些細なけがのときに、「このけがで身体障害認定とれますか?」と聞いてきたことがあり、何とかして国からお金をとれないかといつも考えているようです。

 ちょうど同じとき、このご夫婦と家がご近所だというR夫人も私たちの病院でリハビリを受けており、このやりとりを近くで聞いていました。
 「あのご主人いつもああなのよね。」
とあきれている様子です。
 権利を忘れることなく行使することも大切ですが、P氏はがめついおじさん、とR夫人の目には写ったようです。(私の目にもです。)

障害認定の証明

 病気やけがによる麻痺等の障害が、リハビリをしたにも関わらず改善が頭打ちとなった場合、「症状固定」であるとして、医師から「身体障害者」の認定をしてもらうことがあります。
 障害認定をできる医師はどの医師でもいいわけではなく、所定の手続きを経て「認定医」の資格を持っている医師に認定してもらわなければなりません。

 あるとき、障害認定を受けさせようと考えている脳神経外科の患者さんを担当していたときのことです。
 ちょうど同じころ私の勤務先の病院の脳神経外科の部長医師の交代があり、それまでいた身体障害者認定医の資格を持った医師が大学病院に転出し、大学病院から新たに部長医師が着任されました。
 この新しい部長の医師がリハビリテーション室に挨拶にみえたので、「障害認定はお願いできますか?」と尋ねてみたところ、「はい、できます。」との答えだったので安心したのですが、翌日の朝のミーティングのときに、当時リハビリテーション室の受付をしていたクラーク(事務員)のおばさんから他のスタッフ全員がいる前で、
 「板東先生は失礼です。こんな大きな病院に部長で来る先生が障害認定ができないはずがないじゃないですか。」
と大声で怒られてしまいました。
 「そんなことわからないじゃないか。僕が前にいた東京のA病院は、ここと同じ350床の中規模の病院だけど、院内に障害認定ができる医者が一人もいなかったから、障害認定が必要になるたびに、認定医のいるところに患者を連れて行かなければならなかったんだ。」
と言い返したら、おばさんは黙ってしまいました。
 おばさんは部長級の医師なら誰でも障害認定ができると勝手に思いこんで、私をしかりつけようと思ったようです。

装具の証明書②

 患者さんに装具を作ることになると、保険を使って作る場合は医師に「装具装着証明書」を書いてもらう必要があるので、書類の記載を医師のところにお願いに行くことになります。
 頼まれる医師も突然「これ書いてください。」と未記入の書類を渡されても文章を考えるのに面倒をかけてしまうだろうと思い、書類の余白に記入をお願いする文の例をうっすらと鉛筆書きで書いておいて「こんな感じで(参考に)お願いします。」と頼みに行ったこともあります。

 だいぶ以前私が勤務していた病院で、装具を作り直すことになった患者さんの主治医である若い脳外科の医師に証明書の記入を頼みに行ったときのことです。
 余白に「現在使用している装具は作製から5年が経過し毀損が著しく、新たな装具が必要となったため。」と鉛筆書きしておいたところ、医師は「この字は何て読むんだ、こんな漢字はない。」と言い始めました。
 「あー、この先生『毀損』読めないんだ。『名誉毀損』なんてどう読むんだろう。」と思ってしまいました。
 「毀損」でなく「消耗」とでもしておけばよかったのかもしれませんが、消耗ではちょっとニュアンスが違うように私には感じられ、困ってしまいました。
 以前私の電子機器メーカーの社員時代の経験から、「理系出身の人は漢字が読めない」という話を書いたことがありますが、それは医師も例外ではないようです。

装具の証明書①

 リハビリで使用する義肢や装具は、それらが必要な麻痺のレベルの人にとっては、歩くときなどに身体の機能を代償し、身体の一部となって助けてくれるものです。

 義肢や装具を作製する場合、その患者さんが義肢装具が必要だと医師が証明してくれれば、健康保険を使うことができます
 この場合「療養費払い」という立替払いの方法が使われ、たとえば義肢装具に10万円かかるとすると、患者さんはいったん義肢装具作製業者に10万円を支払います。医師が作成した証明書を役所や健康保険組合などの保険の担当者に提出すると、役所や健康保険組合などから、3割負担の患者さんなら7万円、1割負担の患者さんなら9万円があとから戻ってくるという仕組みです。

 この医師により証明された証明書の審査が杜撰であることに目を付けた業者が、本来保険で作製することができる義肢装具以外の健康器具の販売にもこの方法を使い、お客さんには「安い費用で健康器具が手に入りますよ。」と言葉巧みに健康枕などの商品を売り、タッグを組んでいる医師に証明書を書いてもらって、販売していたことが最近発覚し問題となりました。

 儲けるためにいろいろなことを考える人がいるものです。「この程度のことは何の問題もないだろう、しめしめ。」と儲けを謳歌していた業者は、突然制度の正しい運用のしかたを明らかにされ問題にされて、さぞ、ほぞを噛んでいることでしょう。
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